『暴露 ―― スノーデンが私に託したファイル』(グレン・グリーンウォルド、2014)を最近読みました。
この本は、国家安全保障局(NSA)と中央情報局(CIA)というアメリカ二大情報機関に席をおいたエドワード・ジョセフ・スノーデン氏が、2013年、著者に対して暴露した内容を基に書かれたものです。
その内容とは数年前に明らかにされたように、2002年にブッシュ政権が関連刑法で必要とされる令状を取ることなく国民の電子通信を傍受するよう、国家安全保障局(NSA)に命じていたというもの。
つまり、アメリカ政府が全アメリカ国民を無作為に監視している事実を明らかにしたのです。
それはオバマ政権でも継続され、さらにひどい権力濫用が行われるようになったそうです。
その後数十年にわたってアメリカ政府は、テロの脅威を誇張した情報発信を行いながら、前述したような極端すぎる政策を正当化し続けたそうです。
例えば、 国家安全保障局(NSA)によるインターネット上に打ち込まれる文字のリアルタイム監視や、アメリカ国内の通信システム内を通過するメールと通信データの収集等もそうです。
それはアメリカ政府だけでなく、イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド政府も行っていたようですし(ファイブ・アイズ)、独裁国・地域の政府も行っていたようです。
結果、アメリカ国民だけでなく世界中の人々のプライバシーが破壊されていきました。
そうした政策によって世界各地で武力侵略が生まれ、世間の目が届かない場所において、無実の外国人やアメリカ国民が連行・拷問・監禁、場合によっては消されてきたといいます。
そこには無限の権力を誇示しながら(無実の人々を犠牲にしながら)、同時に権力を濫用している各国政府の姿があります。
そして国家に逆らえない、さまざまなIT企業(マイクロソフト、ヤフー、グーグル、フェイスブック、スカイプ、ユーチューブ、アップル、パルトーク、AOL)の存在も(ツイッターは政府の要求を拒みました)。
そんな深刻な状況にもかかわらず、対米隷属メディアによる偏った情報発信しかされない日本に生きる日本人の大半は、
政府によってネット上のやりとりが全て監視されてしまうことに抵抗や難色を示していません。その理由はおそらく、
- 江戸時代から?監視社会だったため
- 日常生活に直結しないと思われる事柄のため
- 本質的に、国家と君主に対する忠誠心があるため
- 本質的に、付和雷同を常とする集団行動癖があるため、多数の人が騒いでいないのでそれに合わせている
などが考えられます。ただ、
監視をインターネットに根づかせてしまうことは、人間のほとんどすべてのやりとり、計画、場合によっては思考そのものさえ国家の眼にさらすことを意味する(p16)
と著者が指摘している通り、インターネットによる監視が正当化されてしまうことは、個人の自由が著しく制限されてしまうこととなり、今以上に生きづらい社会になる可能性があります。
実際に、そのような法改正も着々と行われていますよね…
ちなみにスノーデン氏は、2010年にCIA職員として日本の横田基地に勤務していた時に、日本がアメリカの同盟国でなくなった時、日本の民間のインフラに侵入させてあるマルウェアを作動させて、電力網(原発、電車、ダム、病院など)を中心としたインフラを完全に停止させる旨を知ったそうです。
…これが事実であるとすれば、日本は今後も対米隷属、アメリカの衛星国として生きる以外ないことになります。
著者は政府による国民監視システムを機能させないためには透明性が不可欠と述べていますが、現状ではその透明性を確立する手立てがありません。
スノーデン氏によると、政府は携帯電話やノートパソコンを遠隔地から起動させて盗聴器として使えるそうなので、
そういう立場の人が会話する際は、バッテリーを抜くか電子機器を別の空間に置くなどの対応をしているようです。
ネット接続できる電子機器の怖さについて、これまで考えてもみませんでしたが、概ねどこでもネット接続可能な現代では、政府に個人の行動が把握されている可能性が高いのかもしれません。
「便利さの代償」という意見もあるかもしれませんが、そうした便利さによって個人の自由と尊厳が冒される、というのは違う気がします。
ちなみに、本書を読んでスノーデン氏に対する印象は全く変わりました。
当時、香港からロシアへ移動していたスノーデン氏のことをニュースで知った時、ものすごく頭の良い人くらいにしか思っていませんでした。
確かにそうだったのですが、それ以外にも天才的テクノロジースキル、高い知性、驚くほどの冷静さがあり、そして「一生自分の身に及ぶであろう危険にかえても、自由で恵まれた生活を捨てでも、違法な政府行為を暴露したい」という勇気・覚悟・情熱を備えた人でした。
CIA時代のことも記載されていましたが、職務上CIA身分を隠してスイスに滞在中、同僚がスイス人に近付いて騙した挙句、本人やその家族の人生を奪ったことが書かれており、
そうした事実を何度も見聞きするうちに、仕事に嫌気が差した旨が書かれていました。
アメリカ政府が長い間行ってきた安全保障政策の危険性が書かれているこの本は、内容が難解で読み疲れする部分もありますが、日本政府にも重なる部分があるのでぜひ多くの人に読んでほしいです。