最近『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(佐藤優、2007)を読みました。
外交機密上から全てを語れないにしても、文章からは、知力・体力・精神力・冷静さ・洞察力・分析力・教養・ユーモアなどが溢れ出ていて、「こうした人が世界の政治エリートと対等に渡り合える外交官なのか…」と唖然としました。
これだけの人を外交の場から排除してしまったことが、どれだけ日本の国益を損なったかは想像するだけで恐ろしい。
おそらく「出る杭は打たれる」という村社会日本では、どれだけ国益となっても「現状維持を望む」組織から睨まれたらアウトなのでしょう。嫉妬と既得権益保持者による足の引っ張り合いが凄そうなので…
現日本は他国との交渉でほぼ毎回、短期的利益を優先するあまり長期的国益を見失っていますが、佐藤氏の排除もそれと似ているような気がします。
本書で印象に残った文章に(佐藤氏の発言ではありませんが)、
日本人の実質識字率は5パーセントだから、新聞は影響力を持たない。ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で物事は動いていく(p97)
というものと
外交官には、能力があってやる気がある、能力がなくてやる気がある、能力はあるがやる気がない、能力もなくてやる気もないの4カテゴリーがあるが、そのうちどのカテゴリーが国益にいちばん害を与えるかを理解しておかなくてはならない(p85)
というものがありました。
前者は言葉通りなるほどと思いました。現代はネットが主流になりつつあるので、状況は少々変わってきているかもしれませんが、相変わらずワイドショーの力は強いと思います。
後者については、「能力のない人間が国益に害を及ぼす」旨が強調されていました。
外交という国益を左右する特殊な場なので、特に能力の有無が強調されてしまうのかもしれませんが、そういう場だけでなく適材適所は社会全体のために重要。
能力によって、多くの人々の命や生活が救われることやその反対もありますから…
他にもこの本を読んで、ロシアはイスラエルとの関係性が深いことを知りました。イスラエルにはモスクワよりもロシア情報が集まってくる場合があるらしい…ただそれは佐藤氏のように人脈が豊富で有能な場合でしょうけれど。
佐藤氏を初めて知ったのは10年以上前の新聞記事だったと思いますが、おそらく氏が作家活動を始めた頃だったと思います。
その頃には外交官時代のような、睡眠時間3時間・何かあればすぐに動けるような状態ではなかったようですが、国を背負って生きる様は変わっていない印象でした。
この本の内容は重いですが読みやすく、ユーモアかつ引き込まれるようなインテリジェンスな描写ばかりで一気読み。
この本を読んだ後で外交ニュースを見ると、これまでとは少し違った視点で見えてきます。世界レベルのビジネスエリートと渡り合う生き様は凄みがあり、氏の本を読めば読むほど氏の持つ恐るべき能力を認識してしまいます。