引き続き、『日本が売られる』(堤 未果、2018年)から引用します。
2018年4月5日。米国ミネソタ州ミネアポリスにあるゲノム編集作物開発企業カリクスト社は、ゲノム編集された高オレイン酸大豆の、商業栽培開始を発表した。(p84)
すでに米国農務省から「環境や人体への影響評価は不要」とのお墨付きを得ていたゲノム編集大豆は、同社と契約を締結済みの大豆農家75軒、合計1万6000エーカー(約6500ヘクタール)で作付けされることになっており、2021年にゲノム編集小麦の商業栽培を始めることに加え、ジャガイモその他7種のゲノム編集作物が、試験栽培を待っている。(p84)
一つの作物に別の作物の遺伝子を組み込む遺伝子組み換えと違い、ゲノム編集は遺伝子そのものに手を入れる。組み換えるのではなくデザインするという全く新しいこの手法は、人体や環境への影響もまだ100%未知数だ。(p84)
遺伝子組み換え技術は、狙った場所に遺伝子を組み込むのが難しく、場所がランダムになるため、極めて精度の低い技術と言われてきました。
そのため、今後は新たな品種改良方法として、ゲノム編集技術が広まろうとしています。この技術は、主にDNAを切断して遺伝子の働きを壊すものです。
遺伝子組み換え技術に比べると、
ゲノム編集は遺伝子を正確に壊すことができると言われていますが、実際は狙った以外の遺伝子を壊すことが起こっています。それにより生物は生命体としてのバランスを失い、食の安全を脅かすような有害物質が産生する恐れがあります。
(『ゲノム編集食品を避けるためのガイド』)
という危険性が指摘されています。
にもかかわらず、アメリカではカリクスト社が開発した、オレイン酸含有量を高めたゲノム編集大豆から作られた食用油が、2019年2月から販売されています。
しかしながら、
EU諸国は皆懐疑的で、ドイツ政府は「想定外の有害因子が出るかもしれないリスク」から、ゲノム編集作物にも遺伝子組み換え作物と同じ規制をする方針を打ち出し、欧州司法裁判所は「ゲノム編集は遺伝子組み換えと同等」との判決を出した。(p84)
欧米の消費者団体も、遺伝子組み換えと同様の規制を法制化すべきだと声をあげている(p84)
状態です。
一方、日本政府の見解は、
ゲノム編集を使った品種改良は主に遺伝子を切断して働きを止める方法によって作物自体の遺伝子を改変するので安全性が高いとされる。遺伝子によって味や栄養を自在に変えることもでき、消費者にメリットの大きい品種が短期間で簡単に開発できる。
厚労省は遺伝子を切断して働きを止める方法は、自然に起こる突然変異や従来の品種改良と見分けがつかないため規制の対象外とした。改変した遺伝子や有害物質の有無などの情報を同省へ届け出れば、安全審査を受けなくても販売を認める。
(ゲノム編集食品 今夏にも流通 厚労省が了承 日本経済新聞)
としていて、環境や人体への悪影響は想定していないようです、、、
一般的な感覚であれば、安全性が分からないものについては、政府として安全性が確認されるまで、社会での販売・流通を認めないのがしかるべき対応だと思います。
もしくは、安全性の検査をして、規制や表示義務について法制化してから販売・流通を認めるべきです。
にもかかわらず、現状ではゲノム編集について安全性の検査もせず、規制や表示義務も課さず、日本社会での販売・流通を認めてしまっています、、、
アメリカでは有機認証委員会がゲノム編集作物を「有機」として認めないという勧告を出しているが、相変わらず「企業がビジネスをしやすい環境作り」に余念がない農務省は、「人体や環境への影響評価は、特にいらないだろう」という独自のスタンスで、さっさと栽培許可を出してしまった。
アメリカの三歩後をぴったりとついてゆく日本政府ももちろんこれに異論はなく、アメリカから年間220万トンの大豆を輸入しているにもかかわらず、環境省は「ゲノム編集」について、日本でも規制しない方針を固めた。(p84、85)
むしろアメリカ同様、ゲノム編集作物を「有機」として認めるか否かという段階までいき、直前で回避されたものの、危険性が未知数のものへの対応として、呆れるようなことばかりしている印象です。
現在普及しているゲノム編集技術は、2012年に開発された「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれるもので、壊したい遺伝子に導く案内役のガイドRNAと、DNAを切断して壊すCas9という酵素から構成されています。
が、この技術はもともと遺伝子治療への臨床応用を目的としたものだったそうで、そのためなのか、
開発者の一人、アメリカ人のダウドナ教授(2020年ノーベル化学賞受賞)は「ゲノム編集を食物に施すのは危険です」と警告しています。
開発者が危険と警告しているにもかかわらず、経済優先のアメリカや日本では、農薬や遺伝子組み換え食品と同様、ゲノム編集食品の販売・流通に積極的です。
しかしながら、
米国コロンビア大学などの研究チームはこのほど、遺伝子操作を格段に改善するといわれているゲノム編集技術CRISPR-Cas9が、生体内で予期せぬ数百の突然変異を引き起こしている、とする研究をネーチャー・メソッドに発表した。
(予期せぬ突然変異を引き起こすゲノム編集 目的外の数百の遺伝子に変異 有機農業ニュースクリップ)
というように、ゲノム編集技術CRISPR-Cas9は予期せぬ突然変異を起こすことも分かっており、そうした技術を食品へ使うことへの危険性を、日本政府は一刻も早く認識すべきだと思います。
日本消費者連盟を始め各種市民団体は、「ゲノム編集作物の規制及び食品表示を求める」意見書を各省庁に提出したが、すでに弘前大学では屋外試験栽培が始まっており、ほとんどの国民はこうした流れを全く知らないでいる。(p85)
すでに、国内では「毒のないジャガイモ」(大阪大学)、「肉厚の鯛」(京都大学・近畿大学)、収穫量の多い稲(農研機構)、アレルギー物質が少ない卵(産業技術総合研究所)、養殖向きのおとなしいマグロ、角のない乳牛、ウイルス感染しにくい豚などが開発されているそうです、、、
山田正彦氏も述べていますが、
「鯛を食べなければいい」という方もいるかもしれませんが、たとえばその鯛がすり身になってカマボコになっているかもしれません。いつも行くファーストフードのフライドポテトがゲノム編集されたものかもしれません。
食べたくない、と思っても完全に除去するのは今の日本の食品表示の仕組みでは不可能です。
私がもっとも早く流通し始めると考えているのは、アメリカで栽培されたゲノム編集の高オレイン酸大豆です。アメリカでは消費者からソッポを向かれてしまっていますが、日本では表示義務がありませんから都合がいい。その大豆が「遺伝子組換えでない」として、豆腐や納豆、味噌などになってスーパーにすでに並んでいるかもしれません。
という風に、知らないうちに食べている可能性があるのです。
そんな中、
遺伝子を効率良く改変するゲノム編集技術を使って開発された食品が国内で流通する見通しになった。
筑波大学生命環境系の江面浩教授と同大発ベンチャーのサナテックシード(東京都港区)が共同で開発した血圧を下げる成分を多く含んだトマトを、厚生労働省の専門調査会が安全性審査は不要と判断。
同社が厚労省に販売流通を届け出て受理された。ゲノム編集食品の届け出は国内で初めて。
という形を経て、2021年9月15日から、ゲノム編集トマトの販売がインターネットで開始されています(ゲノム編集トマト青果物の販売開始のお知らせ )。
こうしてバイオ企業群がTPP条約に望む内容が、条約発効を待たずして一つ、また一つと実現してゆく。(p85)
遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品の安全性については、今後も平行線の議論が続いてゆくだろう。低線量被爆がそうであったように、人体への影響を長期にわたり科学的に検証した実験結果が、まだ存在しないからだ。(p85)
そんな風に人間の都合で、作物や生物の遺伝子を切断して壊すことは、それを摂取する人間にリスクがあるだけでなく、作物や生物自体に悪影響が出て、今後ゲノム編集作物や生物が広がって行く過程で想定外の異変が起きないか心配です。
実際、ゲノム編集された農作物は、花粉が栽培時に飛散すると生態系を乱す恐れが指摘されています。
自然界でも遺伝子の一部が欠損して突然変異種が生まれることはありますが、それをゲノム編集で人工的に施すのは、倫理的にも危険な方向性だと感じています。
ましてやそれを食品として食べることは、個人的には避けたい気持ちがあります。
もちろん、気にならない人もいるのかもしれませんが、食べたくない人が選べるように、ゲノム編集食品もしくはゲノム編集食品使用品であることが分かるように、日本政府は表示の義務化をするべきです。
同時に、規制のない現状のまま、ゲノム編集食品を栽培・販売・流通させるのは危険なので、他国と同様、遺伝子組み換えと同等の規制をかけるべきだと思います。
アメリカではすでに、ゲノム編集大豆、ゲノム編集なたね、ゲノム編集小麦が開発されています。
ゲノム編集食品の表示義務がない現状では、そんなアメリカからゲノム編集大豆、ゲノム編集なたね、ゲノム編集小麦が輸入されても分かりません。
そのため、今後は外国産大豆、外国産なたね油、外国産小麦はどれも危険だと認識し、できる限り国産大豆100%使用品を買う、国産なたね油使用品以外は買わずごま油とオリーブ油を買う、国産小麦100%使用品を買う、という形へシフトしていこうと思います。
ただ、大豆やなたねは「植物油脂」という形であらゆる食品に使われている可能性が高いため、植物油脂使用品も、今後はできる限り買わないようにしていこうと思います。