『日本が売られる』㉑山崩れや土砂災害、河川の氾濫が増える原因は政府が作っている

引き続き、『日本が売られる』(堤 未果、2018)から引用します。

2018年5月。

参議院本会議で、またしてもほとんどの国民が知らないうちに、日本の資産を売る法改正が決められた。「森林経営管理法」だ。

自治体が森林を所有する住民の経営状況をチェックして、「きちんと管理する気がない」とみなされたら、どこかの企業に委託してその森林を伐採できるようにする。(p106)

所有者が「切らないでくれ」と言っても、市町村や知事の決定があれば、所有者の意思に関係なく伐採しても良い(樹齢55年以上のものは全て伐採)。(p106)

この法改正によって、たとえ自分が所有している山であっても、自治体が委託した企業によって勝手に伐採されてしまう可能性が出てくるようです。これは、所有権の侵害に当たるのではないかと思います、、、

第一、「きちんと管理する気がない」とみなす基準があいまいで、仮に自治体と癒着している企業から、樹齢55年以上の良質な木々に目を付けられてしまったら、勝手に伐採されてしまう可能性もあるわけです。

〈失礼ながら森林所有者の方々は、経営状態も悪い上に高齢化していらっしゃる。森林の手入れなど手が回らないのでしょう。これではせっかくの資源が活かされない。衰退しかけた我が国の林業がようやく復活しかかっている時にもったいないではありませんか。

でも大丈夫、解決策がちゃんとあります。「国産木材の供給量を増やす」という政府の方針にぴったりの方法が。そう、企業のノウハウを入れるんです〉(p108、9)

そのノウハウを提供するのは、例えば、木材チップを使うバイオマス発電事業を精力的に全国展開しているオリックスだ。(p109)

オリックスはパソナ同様、日本政府に対して規制緩和をするよう圧力をかけてきた企業であり、外資を含む大企業中心社会へと日本を変え、日本国民の利益を損ねる政策を強行させている印象があります。

バイオマス発電の電力は「固定価格買取制度」を使って政府が高く買い取ってくれるので、木材チップはこれからドル箱になる。

森林伐採の費用は、政府がわざわざ無期限延長してくれた森林環境税(国民一人につき1000円)が後押ししてくれることになったので、企業側の経費は安く済むだろう。

前述した、日本で〈水道〉〈放射性廃棄物〉に続く3つ目のプロジェクト〈バイオマス発電ビジネス〉を進める仏ヴェオリア社も、これには拍手喝采だ。(p109)

森林環境税とは、2024年度から個人住民税に上乗せされる形で、国税として1人年額1,000円支払うことと、いつのまにか決められた税金です(森林環境税及び森林環境譲与税 林野庁 )。

しかしながら、すでに府県や市において2003年以降、同様の税金が徴収されているケースも多く、「二重課税になる」という指摘もあります。

そもそも森に手が入れられないもう一つの理由は、国が木材の関税をなくしたせいで木材価格が安くなりすぎ、林業従事者が生活できなくなったため(p110)

それを棚に上げ、「森林所有者はやる気がないから国の方で企業に森林を差し出してやる」というのはひどい(p110)

です。

しかもその費用の一部は、森林環境税という税金で国民に負担させるような形に見えますし、そもそも

樹齢のバランスを無視した「拡大伐採計画」をごり押し

することは、1960年代に行った「拡大造林計画」で、日本各地の山を荒らした反省が全くないということになります。

ただやみくもに切ればいいというものではない。(p110)

樹齢に合わせ少しずつ順番に切っていかないと、森が維持できなくなってしまうのだ。(p111)

日本政府は、何度同じ失敗を繰り返したら気が済むのか、、、

日本は国土の3分の2を森林が占めている。

森林では80種類の鳥と3400種の植物が多様な生態系を形成し、おもに人間が出す二酸化炭素を吸収し、地中に張り巡らせた根っこが土壌を支えて土砂崩れを防ぎ、土壌に蓄えた雨水をゆっくりと浄化しながら河川に流している。(p107)

様々な恩恵をもたらす森林は、我が国の大切な資源の一つなのだ。(p107)

だが、貴い資源の価値よりも目先の利益で動いた政府が「拡大造林計画」を強引に進め、自然林を散々人工林にした後で、それに追い打ちをかけるように、今度は木材の輸入を自由化した。(p107、8)

この「拡大造林計画」によって、もとは広葉樹(ブナ、クスノキ、ナラ、ケヤキなど)主体だった日本の山が、針葉樹(スギ、ヒノキ、ヒバ、マツ)主体の山へと変わってしまいました。

その結果、様々な問題が起きています。

まず、多くの日本人にとって身近な問題となっている、花粉症

これは、

切っても運び出せないほどの急斜面や山奥に、「拡大計画」だと言ってスギやヒノキを植えまくった(p110)

日本政府(林野庁)による人災とも言えます。

もちろん戦後、住宅を建てるための建築資材が民有林に不足していたため、「国有林(自然林)をどんどん伐採する必要がある」という世論に押されて行われた面もあったようなので、時代的背景による人災とも言えるかもしれません。

広葉樹主体の山から、針葉樹主体の山へ変わったことで起きた他の問題としては、保水力のない山が増え、1980年代から山岳地帯の斜面を削りまくったことと相まって、山崩れや土砂災害、河川の氾濫が増える原因となっています。

また、広葉樹と違って針葉樹には、クマ、イノシシ、サル、シカなどの食べ物となるものが実らないため、食べ物を求めて人間が住む生活環境へ頻出するようになってしまっています、、、

戦争によって失われた自然林(広葉樹や針葉樹)を補うために、国有林(広葉樹や針葉樹)を伐採し、それを補うために人工林(針葉樹のみ)を大量に植えた結果、上記のような問題が起きているのです。

今後は、森林における生態系を維持するためにも、そして日本列島に住む人間のためにも、自然林(広葉樹や針葉樹)へ戻す必要があるのだろうと思います。

それにしても、人工林(針葉樹のみ)を大量に植えた後、

外国製の安い輸入木材が入ってきたせいで木材全体の値段が下がり、国内の林業従事者は経営的に追い詰められて次々に廃業、林業人口はどんどん減ってゆき、多くの森林も手が入れられず放置されるようになってしまった。(p108)

という事態を招いたわけですから、それが分かった時点で、国内の林業従事者を守る法律を制定・施行する必要があったと思います、、、

日本政府は、第一次産業(農業、林業、漁業)を衰退させる政策を取り続けていますが、日本の国益や日本人の利益を考えるならば、第一次産業こそ税金で守るべきものだろうと思います。

「森林経営管理法」は、自治体が委託した企業にどんどん森林を切らせることで、あちこちの森林を集約し、効率良い大規模ビジネスにすることを目指している。

酪農や農業、漁業で政府が進めているのと、全く同じビジネスモデルだ。

だがここには、機械を使って広範囲に林道を切り開くことによる大きなリスクは含まれていない。(p112)

1980年代以降、各地の森を切り開いて巨大な林道を作るために、山の形状を無視して斜面を無理に削った結果、前述したように、豪雨の時に山崩れなどを誘発するようになってしまいました。

一方、

森林をよく知る小規模林業従事者は、山を極力削らない。(p112)

山の形状に負荷をかけない「自伐型林業」というやり方で、切った木材を工夫して並べ、巨大トラックでなく2トントラックに小さな運搬機を乗せてそっと運ぶのだ。(p113)

自伐型林業は森林所有者から任せられた森林を、多様性を持つ一つの生態系として長期スパンで管理する(p113)

そうです。

そうした自然環境に負荷をかけず、生態系に沿ったやり方を貫いている場合、

「やる気がないから切らない」のではなく、「50年、100年単位で森林計画を立てているからこそ、まだ切らない」と決めている所有者

も多いのではないかと思います。

そうした管理方法があるにもかかわらず、自然災害大国である日本列島において無視し、

山が本来持っている、豪雨や台風や洪水から民を守る機能がどんどん失わ(p113、4)

れるような政策を強行している現状は、あまりにも目先の利益でしか物事を見なさすぎだと思います。

外国資本を含む大企業が、「産業を活性化する」「世界と対等に戦える成長産業にする」という文言のもと、日本政府にあらゆる規制を緩和させ、効率良い大規模ビジネスを展開してきました。

が、その結果、数多くの中小企業や国民が犠牲となり、本来であれば国内産業として日本政府が守るべきあらゆる産業従事者が、廃業を余儀なくされている状況です。

中小企業を衰退させ、外国資本を含む大企業ばかりが優遇されている現状は、到底まともな状況とは言えません。

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