引き続き、『日本が売られる』(堤 未果、2018)から引用します。
本当は全てのページを同時に書きたいような状況なのですが、、、頭や手が足りないだけでなく、絶望的現実に向き合うのが辛いため、また元のページに戻って、1つ1つ書いていこうと思います。
2016年6月。
農水省で奥原正明氏の事務次官就任が発表された時、多くの農業・漁業・林業関係者の耳には、自分たちの運命の歯車が大きく回り出す音が聞こえたことだろう。
「農業を産業にして日本から農水省をなくすことが理想」と公言し、関係者の間では「農水官僚の皮を被った経産官僚」と呼ばれる奥原氏。
この新事務次官が情熱を注ぐのは、政府の規制改革推進会議の意向に沿った、「林業と水産業の民間企業への開放」だ。(p114)
奥原正明氏は、2018年農林水産事務次官退任後、株式会社オプティム経営諮問委員会エグゼクテイブアドバイザーや、日本農業法人協会の顧問に就任しています。
日本農業法人協会は、全国各地で農地を「集約・大規模化」させて農業法人を作らせ、以前『日本が売られる』⑯危険性が未知数のゲノム編集食品を、表示や規制もせず販売・流通させる日本政府でも書いた、ゲノム編集技術で「収穫量の多い稲」を開発している農研機構と関係がある組織です。
林業は国有林を企業に開放し、水産業は養殖ビジネスに企業が入りやすいよう、漁協が管理する漁業権を民間企業に開放する。
早速、規制緩和に忠実なメンバーが厳選されてワーキンググループ(WG)が立ち上げられた。これから日本の農業・漁業の運命を握るこの面々が、最初の会議で揃って口にした言葉はこうだ。
「農業は専門外の素人なので、これから勉強させていただきます」
規制改革を効率よく進めるには、完璧すぎる人選だった。農業・漁業の当事者も組合関係者もいないので、反論も出ず、予定調和でサクサク進む。(p115)
規制改革推進会議ではほぼほぼ、外国資本を含む大企業が、各分野へ参入しやすいように「規制緩和」する計画が決められています。
が、そのほとんどが日本と日本人に不利益をもたらす決定です、、、
そのため、本来まず最初に規制すべきは、こうした会議メンバーの人選であり、会議を開く前から結論が決まっているような人選が、まかり通っている仕組み自体を変える必要があると思います。
手始めに「林業は2017年中に結論を出して実行、漁業は2017年中に検討を始めて2018年に実行する」という、世にもスピーディな工程表が作られた。
漁業に関して、メンバーの意見は一致している。日本の漁業の衰退は、漁船の老朽化と漁業者の高齢化が原因だ。解決策はたった一つ、今すぐ「成長産業」にするしかない。(p115)
規制改革推進会議では、
もっと根本の原因である、1961年の「自由化」で安い輸入の水産物が大量に流れ込み国内漁業を圧迫しているという事実の方は、最後まで議論のテーブルには乗せられなかった。(p115、6)
そうです。
他の産業と同様、過去の規制緩和が現在の問題を生み出していることを、日本政府が省みない限り、いつまでもどこまでも間違った政策を取り続けるだろうと思います。
確かに、国内漁業が衰退してしまったのは、消費量の減少や漁船の老朽化、漁業者の高齢化にも原因があるかもしれません。
が、それだけでなく、過去の規制緩和や公害時の対応、福島原発からの汚染水問題など、政府の政策にも原因があるのです。
にもかかわらず、それを産業従事者だけの責任にすり替えて、第一次産業を破壊するような政策を推し進めるのは間違っていると思います。
本来であれば、各産業に合ったやり方を日本政府が税金で守るべきだと思うのですが、経済中心の日本政府は、最終的に大企業へ利害誘導できるような政策しか行いません。
野坂美穂座長はこうまとめた。
「海外の事例や、すでに実施された特区の例を教訓にすべきです」
すでに実施された特区とは、2013年に宮城県が実施した「水産特区」を指している。
東日本大震災で東北の漁業が最大被害を受けた後、宮城県の村井嘉浩知事は力強くこう力説した。「単なる復旧ではなく、集約、大規模化、株式会社化の1セットで水産業を根本から変えるのだ!」
そして現場漁業者や組合の反対意見を押し切って、日本初の水産特区を強引に導入する。(p116)
この水産業復興特区とは、
2011年12月、国(復興庁)が制定した「東日本大震災復興特別区域法(復興特区法)」のうち「水産業復興特区法」にて認可された区域のこと(日本初の水産業復興特区)
で、
内容は、“東日本大震災により甚大な被害を受けた被災地の迅速かつ円滑な復興の推進を図るため、地元漁業者が主体となりつつも外部の企業ともに復興を進めることができるよう、被災地のうち、地元漁業者のみでは養殖業の再開が困難な区域(浜)について、「地元漁業者主体の法人」に対して県知事が直接漁業権免許を付与することを可能とする。”というもの(日本初の水産業復興特区)
だそうです。
県内140ヵ所ある漁港のうち、小さな漁港は潰してまとめ、3分の1に減らす。漁業権は企業に渡し、漁業者はその会社の社員になればいい。
高齢化や漁船の老朽化、国民の魚離れなどから衰退しつつある漁業は、この特区で必ずや活性化し、若者を引きつけ、後継者不足も解消するはずだ。
養殖サーモンビジネスで世界的な成功を収め、水産業が若者の人気職業第1位になったという、「養殖長者ノルウェー」のように。(p116、7)
とはいえ、漁業関係者と漁協はこれに猛反対。
養殖は、知識や経験に基づく技術や判断力がものをいう業界だ。儲かりそうだからと企業が金にものをいわせて参入して、うまくいくものじゃない。海には海のルールがある、周りの漁業者や地元住民との協力を調整する漁協を排除して好き勝手にやられたら、誰が日本の海を守るのか?漁協が企業の参入を邪魔している? それは嘘だ。すでに参入している日本水産やマルハニチロなどの日本企業は、ちゃんとこのルールを守って漁協に加入し組合員になり、問題なくやっているではないか。(p117)
そもそも企業が守るのは、海でも漁村でもなく、「株主」だ。
採算が取れなければ、さっさと撤退する。
かつて大分県と高知県でハマチ養殖に参入したノルウェー企業は、5年連続赤字を出した挙句に突如撤退し、残された地元漁業者は設備投資分の借金を抱え、大勢廃業してしまった。
企業が自己都合で撤退し地方経済が崩れても、誰も責任を取ってなどくれないのだ。(p117)
宮城県では水道民営化により、今年4月から民間企業による運営事業がスタートしますが、人の命にかかわる「水道」事業の民営化は、世界各国で失敗が続いているため、なぜ今行うのか疑問の声が多く上がっています。
そんな宮城県の
村井知事は、漁港を3分の1に減らし、行き場をなくした漁民に漁業を捨ててサラリーマンになれという。一体全体これは誰のための復興なのか?
だがこれらの声は、「漁業の株式会社化」という自らの構想に情熱を燃やす村井知事の耳に届くどころか、むしろその決意に火を注ぐ結果となった。
「どんなに嫌われ者になっても、やり遂げる!」
知事は敵に包囲された正義の主人公のごとく熱い口調で宣言し、行く手を阻む障害物を速やかに排除し始めた。(p117、8)
その結果、
特区に関する細かいルールを決める「協議会」のメンバーは、国と県と特区参入企業のみで構成し、現場の中小漁業者や漁協関係者は全て蚊帳の外(p118)
に置かれ、その後
宮城県の「震災復興基本方針全面支援企業」の座を手に入れたのは野村総合研究所(p118)
になったそうです。
しかしながら、
それから5年後の2018年3月。宮城県が水産庁に提出した「特区に関する報告書」は、知事の掲げた「企業参入で活性化」からはほど遠い内容だった。(p118、9)
特区導入後に参入したのは「桃浦かき生産者合同会社」一社のみ。復興推進計画で掲げた生産量と生産額は、目標の6~7割しか達成されておらず、桃浦かき生産者合同会社の雇われ社員となった漁業者の一人当たりの手取り収入は、社外の漁業者に比べ大幅に低くなっている。(p119)
それだけでなく、
漁協を通さずに漁業権を手に入れたこの企業は、地域の漁業者同士で決めた出荷日よりも前に出荷したり、宮城以外から取り寄せた商標登録されていない他県のかきを加工して売るなど、周りの漁業者に迷惑をかけ県のブランドイメージを傷つける、世にも勝手な行動を繰り返していた。(p119)
牛肉やウナギ、あさり、わかめ、米など、産地偽装はよくありますが、桃浦(宮城県)と侍浜(岩手県)は地理的に近いため、価格を抑えるために・外国産を隠すためにというものではないようです。
とはいっても、企業のノウハウを取り入れたものの財政健全化には繋がらず、
フタを開けてみると、黒字だったのは1億円の震災寄付金があった初年度と、国の助成金が出た翌年の2年間のみ。巨額の税金が投入されたにもかかわらず、復興計画の目標は未達成で、3年目からは毎年赤字が膨らんでいる。(p119)
といいます。
にもかかわらず、宮城県では引き続き地元漁業関係者の反対を無視し、水産特区を続けているようです。同時に、
全国初の特区がコケたくらいでは、奥原事務次官の野望はビクともしない。この手の失敗は、新聞とテレビが沈黙すればほとんどの国民に知らされず、なかったことにできるのだ。
宮城県のローカル紙に小さな記事が載った後、この問題は終わりになった。(p120)
というように、日本政府は政策が失敗しても関係なく、外国資本を含む大企業寄りの政策を実行するために、今もなお「集約、大規模化、株式会社化」の全国展開が推進されています。
個人的には、放射性物質などによる海洋汚染、養殖に使われている化学物質、元来の好みにより、魚介類は得意ではなく、摂取する場合でも産地を選んでいます。
が、魚介類を生業とする人にとっては死活問題であり、好物の人々にも値段や質、安全性などの影響が考えられることなので、次回続きを書くつもりです。