『日本が売られる』㉘築地市場の豊洲への移転は、TPP協定に沿ったもの、政府は公設卸売市場の解体を進めたいだけ

引き続き、『日本が売られる』(堤 未果、2018)から引用します。

2018年6月15日。

カジノ法が衆議院内閣委で強行採決され、各地で怒りのデモが行われていたあの日、全国の生産者も流通業者も、ほとんど誰も気づかぬうちに、日本人の大切な資産が、また一つ売りに出された。

その日の午後参議院でひっそり成立したのは、「卸売市場法改正」(=卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律)、公設卸売市場の民営化だ。(p127)

肉や果物、魚など、生鮮食品を卸業者が生産者から集荷して、それを仲卸業者が買い付けて小売業者に売るという我が国の「卸売市場」。(p128)

1971年に施行された「卸売市場法」は、そうした卸売市場における取引を適正なものとし、生産や流通が円滑に行われるための法律で、

大正7年の米騒動で、市場原理に任せて米価格の暴騰を招き失敗した政府が、「巨大資本による買い占めを許してはならない」として約80年前に作った(p128)

ものです。

ちなみに、開設者が国(農林水産大臣)から許可を得て開設する卸売市場を「中央卸売市場」といい(2017年時点で64市場)、開設者が都道府県から許可を得て開設した卸売市場を「地方卸売市場」といいます(2016年時点で1060か所)。卸売市場ってどんなところ? – 農林水産省

近年はネットの普及で、市場を通さず直接生産者から買う業者が増えて仲買人が職を失うケースも増えているものの、商店街と地域経済を守るこの公共インフラは、極めて民主的な「食の流通プラットフォーム」として、世界から注目されて(p129)

きました。

また、

産直取引や、卸売業者を抜いた「中抜き」取引が進むといわれるが、じつはそれはちょっと違う。産直や契約取引はすでに長年取り組まれてきているが、取引先が多くなると取引を管理するコスト自体が上がり、価格も硬直化してくることが多い。最近ではそれに気づいた売り手・買い手が市場流通に回帰しているケースも多い(『からだにおいしい 野菜の便利帳』p144)

のです。

そんな公設の卸売市場ですが、過去2度の法改正に続く2020年の法改正により、解体する流れが加速しています、、、

まず、法改正前は、中央卸売市場を開設できるのは、人口20万人以上の自治体に限られていましたが、法改正以降は、

一定以上の大きさと条件を満たせば企業が開設できるように(p131)

なり、

整備の仕方も運営方法も、自治体が口を出せる部分がぐっと減り、企業が独自のルールを決められるようにな(p131)

りました。

その結果、

各地の卸売市場が生鮮食品の需給を調整しながら価格形成し、築地のような中央卸売市場は食品衛生検査員を派遣して食の安全を守(p128)

っていたのが、今後、大企業運営の卸売市場になると、

自治体がやっていた、食の安全についての指導や検査、監督権限を民間企業に丸投げすることで、食の安全を守るという公的な役割も保証されなくなってしまう(p133)

可能性が出てきました。

また、法改正前であれば、

イオンやダイエーのような大手小売業者から地方の小さな商店まで全て平等に扱われるので、作ったものを卸業者に委託すれば、競りにかけられる時も輸送コストや出荷量で差をつけられる心配はなく(p128)

目利きの仲卸業者がその時の需要と供給にあった適正価格をつけてくれる(p128)

ため、

生産者の大半を占める小規模農家や漁業者が、不作豊作にかかわらず安心して出荷することができ(p128)

ました。

また、そうした品は、

工場で大量生産するものと違い形や品質もバラバラなので、仲卸業者の存在は、買い手である消費者に安心安全な食品を届けるためのチェック機能にもなってい(p128、9)

たのです。

しかしながら、今後、公設の卸売市場の解体が進み、大企業運営の卸売市場ができると、

流通業界の寡占化が進む先進国(p130)

のように、

大企業が市場の半分近くかそれ以上を独占(p130)

する可能性が高くなります。

なぜなら、日本の卸売市場が

国産生鮮食品の8割以上が集まる場所にもかかわらず、大手スーパー上位5社が流通に占める割合をわずか3割に抑え、品質と安全だけでなく、食の「多様性」を維持して(p130)

これたのは、公設卸売市場で、

全ての生産者が平等に扱われていたから(p132)

です。

今後、

公的なルールが外され自由競争になれば、生産規模や交渉力による力の差で弱者が振り落とされ、全体の種類は減ってゆく(p132)

可能性が高くなり、

多種多様な質の良い食品が売られる場所が消えてゆけば、私たち日本人は食の選択肢を失うことにな(p132)

りかねません。

また、法改正によって、

企業の仕入れコストを最大限削減できるよう、仲卸業者を通さない直接取引の解禁(p132)

も行われたため、今後

企業は競りなど行かず、卸業者から直接買うか、生産者から直接仕入れて中間コストを節約(p132)

する方法が一時的に増えるかもしれません。

ただ前述したように、取引先が多くなると取引を管理するコスト自体が上がり、価格も硬直化してくることが多いため、それに気づいた企業は再び卸売市場に戻る可能性があります。

また、法改正によって、

入荷した品は市場の中だけで取引するというルールも廃止され、市場の外で売ることもできるように(p132)

なったため、ますます公設卸売市場の衰退が懸念されます。

農産物に限って言えば、個人的には、ネット通販などで農家と消費者が直接繋がる仕組みは、農薬、化学肥料、遺伝子組み換え、ゲノム編集技術、添加物、外国産冷凍野菜などの危険な食品を避け、安全な食品を手に入れられる点からも良いことだと思っていたのですが、どうやら良いことばかりではないようです、、、

需要と供給のバランス、そして品質で適正価格をつける仲卸業者がいなければ、全ての取引の判断基準は「価格」だけになってしま(p132)

うため、そうなると、

価格競争にさらされた小規模生産者が大手スーパーと対等に交渉するのは難しく、今後は「言い値」で買い叩かれるケースが増え(p132)

冷凍業者や巨大スーパーは大口で買うから単価を下げろと要求し、それに対応できる大規模生産者とそうでない小規模生産者との差がどんどん開いてゆく(p132,133)

ことになります。

そうなると今後、小規模生産者は、新たな販路開拓(独自の販路開拓)や、大規模生産者にはできない価値を商品に付けるなど商品の差別化が、不可欠になってくるかもしれません。

しかも、

農業や漁業のように天候などの不可抗力で生産を左右される不安定な生鮮食品は、この仲卸業者がいるからこそ、国民に安定的に供給できていた(p133)

ため、仲卸業者がいなくなることによる、食の安定的な供給も懸念されています。

結局、今後考えられる事態をまとめると、

  • 大企業による価格設定となる
  • 小規模生産者が大手スーパーと対等に交渉できなくなり、「言い値」で買い叩かれるケースが増える
  • 食の安全性が今以上に危うくなる
  • 食の安定供給が難しくなる
  • 食の多様性が消える
  • 公設卸売市場が減り続ける
  • 仲卸業者の品揃えや目利きに頼っている飲食店・小売店の仕入れに影響が出る

ことです。

とはいえ、

政府と規制改革推進会議にとっては、第一次産業や地域経済、食の安全保障を守るより、来2019年に発効するTPP協定に反する国内公共インフラをなんとかする方が急務(p130)

で、

卸売市場を民営化する今回の法改正は、「総合的TPP関連政策大綱」に沿って、規制改革推進会議が(p131)

どうしても成立させなければならなかったものなのです。

ただ、その中身は、外国資本を含む大企業を優遇し、中小企業を廃業へと追い込み、地方経済を衰退させるものです。

なぜTPP協定では、そうまでして公設の卸売市場を解体したいのか?

それは、

卸売業者は、生産者や農協から持ち込まれる農産物を必ず売ってあげなければならないという法律がある(『からだにおいしい 野菜の便利帳』p143)

からで、

市場に持って行けば必ずお金になるという、一般企業からすれば夢のようなしくみ(『からだにおいしい 野菜の便利帳』p143)

が、外国資本を含む大企業にとって、とてつもなく邪魔だからでしょう。

いくら卸売市場内の需要と供給の関係で価格が決まるとはいえ、外国資本を含む大企業に不利なものは、政府に圧力をかけて破壊するのが現代社会のやり方です、、、

「TPP協定」では、卸売市場のような公共インフラは企業のビジネスを阻むのでNG(p131)

となっています。

今年1月にTPP11が発効されたことによって、今後、卸売市場以外の公共インフラ(水道、交通、教育など)も民営化される可能性があります。実際、宮城県では水道民営化が4月から実施される予定です、、、

2018年に強行された、東京都による築地市場の豊洲への移転を見ても、TPP協定に沿って公設卸売市場を解体したい政府の思惑がそのまま表れています。

中小規模の農家や漁業者、仲卸業者、食の安定供給、食の安全などを守っていた卸売市場が無くなることで、先にも書いたように、今後さまざまな問題が出てくる可能性がありますが、、、

いち消費者としては、安全で良質な食品を扱う中小企業の品が買えなくなるのは困るため、今後も安全性の高い食品を扱うお店での買い物を続けると同時に、できるだけ大企業の品ではなく、中小企業の品を選び続けようと思います。