引き続き、『政府はもう嘘をつけない』(堤未果、2016)から引用します。
ISDS裁判とは、国際貿易協定を結んだ国家間で、その国の国内ルールによって投資家が商売を邪魔されたと判断した場合、投資家側がその国家を訴えることができるというルール(p179、180)
なのですが、
これがグローバル化によって、国境を越えた巨大な訴訟ビジネスとなり、各国の主権が失われる危険性が出てきています。
「投資家が国家を訴えるISDS訴訟は、何と言ってもその規模が通常の訴訟とは桁違いなことです。国内に100万人以上弁護士がいる訴訟大国のここアメリカでは、(中略)、弁護士たちの最大の関心は、いかにこのISDS訴訟で利益を上げるかの研究(略)」(p180)
が進められています。
「この裁判自体、平均800万ドル(約8億円)の費用がかかるので、使える税金に限りがある国家側は、訴えられた時点で不利(略)」(p180)
であり、また、ISDS裁判はその仕組みによって投資家の勝率が高いため、
高額報酬を狙う弁護士たちは、そのチャンスが転がっていないか各国政府の政策に目を光らせているようです。
結果、アメリカだけでなく、
ドイツやオランダ、イギリスの法律事務所など、世界中の弁護士事務所が営業攻勢をかけて(p184)
投資家たちに「ISDS裁判をしませんか?」と言っているようです。
「オーソドックスなのは〈法人税増税〉ですね。これは一発でISDS裁判の対象になります。ハンガリー政府が法人税増税を発表した時、国内に投資しているグローバル企業群に、ヨーロッパの弁護士事務所から矢のように営業電話が殺到しました。
2004年に南アフリカ共和国で黒人の雇用機会を拡大するための制度が導入された時は、アフリカ国内のダイヤモンド鉱山などに投資しているグローバル企業が〈内国民待遇違反〉を盾にしたいくつものISDS裁判を起こし、政府から和解金を勝ち取っています。
報酬が非常に高額になる〈薬価〉関連のISDS裁判も人気ですよ。
2012年にインド政府が、高額な抗がん剤(ネクサバール)の薬価を下げた時は、アメリカの法律事務所が即、ネクサバールの特許を持つ製薬会社に営業をかけています。(略)」(p185)
TPPを締結してしまった日本政府も、今後政策によってはISDS裁判の標的になる可能性があります。
近年、大半の国民の声を無視する政策が強行されているのも、
日本政府がグローバル企業や投資家からISDS裁判を起こされないためだと予想します。
ただ、この本で衝撃的だったのは、TPP締結により、
日本政府が他国製の原発を使い続ける限り、日本は永遠に脱原発できないという事実です。
「日本の原発はアメリカ製ですよね?もしTPPに批准してから日本政府が脱原発政策に転向した場合、アメリカの原発メーカーは(中略)日本政府をISDS裁判で訴える可能性が出てくるでしょう」(p210)
それは、日本政府の脱原発政策によってアメリカ製の原発が稼働停止させられたら、
投資した資金やそこから得られたはずの利益がパーになってしまう、という理由からです。
実際、ドイツが脱原発宣言をした際、スウェーデンの原発製造メーカーがISDS条項を使ってドイツ政府を訴えています。
裁判に負けたら最後、政府側は国内ルールを変え、税金で巨額の損害賠償をしなければならない(p211)
ので、以下に書いたようにアメリカ有利の情勢を知ってか、対米隷属政策は続行中です。
3人の企業弁護士によって判決が下されるISDS裁判。
(略)、この3人は訴えた投資家側から1人、訴えられた国の政府から1人出され、「双方に中立な立場」が条件の3人目が75日以内に見つからなければ、世銀総裁(アメリカ人)が任命する仕組みになっている。
ほとんどのケースで、3人目はアメリカ国籍の世銀総裁が任命するため、裁判はアメリカに有利になると言われ、実際アメリカ政府はISDS裁判で過去一度も負けたことがない。(p210)
日本政府は、大半の日本国民を虐げる政策であっても、
それがISDS裁判の標的になる可能性があると、国内規制をどんどん緩和することで対応している模様。
ただ、以前も書いたように、TPPにはISDS条項以外にも、
ラチェット規定、NVC条項、未来最恵国待遇、内国民待遇などがあり、、、
さらには今後、TISAというすべての公共サービスを民営化する条約が締結される可能性も高く、、、
これが締結されたら最後、日本社会は崩壊し、投資家と多国籍企業のための世界になってしまうと思います。
この本に「TPP協定は訳ではなく原文を読みなさい」とあったため、無理とは知りながらも
環太平洋パートナーシップ協定のページから概要や協定条文を読もうとしましたが、、、
一瞬の黙視で不可能と判断。
とりあえず、TPPの訳文を読むことから始めようと思います。