昨年購入してからずっと放置していた『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』(黒岩比佐子、2010)。
先日ようやく読み終えました。
この本で初めて堺利彦という人物を知ったのですが、まずその幅広い人脈にビックリ。
人としてのあたたかさ、面倒見の良さ、適応力の高い経営手腕、ユーモアのためか、
幸徳秋水や大杉栄、内村鑑三だけでなく、有島武郎や夏目漱石など、数多くの人と交流があったそうです。
日露戦争以降軍国化していく日本社会に対して、命がけで非戦論を主張する社会主義者だったことで、
一目置かれていたのかもしれません(想像)。
その分、当時の政府から危険視されていたためどこへ行くにも監視され、軍人から命を狙われ続け、憲兵隊からも暗殺されかけていたようですが…
例によってこの本で印象的だった部分を抜粋。
政府は不都合な情報を一切秘密にし、ほとんどの新聞と雑誌は緒戦の勝利を華々しく書き立ててて、読者の愛国心を煽った。またたく間にメディアは戦時色一色に染まる。(p123)
今の大手メディアと同じ、、、当時の新聞も政府広報です。
日露戦争のために政府は戦時予算を組み、非常特別法を制定して十一科目の税率引き上げを実施しようとした。(p125)
明治の重税で国民が苦しむ図は、現代と同じ、、、
女子が「奴隷」のように男子に隷属している(p139)
今でも一部地域では女性が男性に隷属しているだけでなく、社会全般で男尊女卑といえる面が存在しています、、、
ちなみに、37万人もの総死傷者を出した日露戦争後(日本の総人口が4600万人の時代)、
期待していたロシアからの賠償金を取れなかったこともあり、大半の国民の生活は悲惨だったようです。
全国的にも戦後は不景気で失業者が増えた。物価が上昇するのに対して賃金はほとんど上がらず、労働者は生活に窮していた(p150)
1907年につくられた「あゝ金の世」という諷刺の入った流行歌の歌詞を見ると、
「今だけ、金だけ、自分だけ」という現代の価値観と重なり、歴史は繰り返すことを痛感。
あとやっぱり出てきたのが、信書が開けられていたこと。
堺の名で出された郵便物は警察の命令で管轄郵便局で留め置かれ、警官が内容を確認した後で発送されていた。堺に届いた郵便物も、同じように内容を調べた上で配達されている。(p229)
この当時の書籍を読むと出てくることが多い記述ですが、、、
他人の手紙を開けて読む神経が信じられず、こうした記述を読むたびに気持ち悪さを覚えます。
他にも、日本人の商売に関する矛盾した感覚を指摘をした、内村鑑三の文章も掲載されていました。
1900年に書かれた「日本人と金銭問題」という文章ですが、
日本人は一般に商売を好んで商売を嫌ふ者である、彼等は即ち自身が商売するを好んで他人が商売するを嫌ふ者である、(中略)、彼等は自身の肥えん事を望んで他人の痩せん事を望む者である、実に奇態なるは日本人の商売に関する思想である。(p300)
職業が多様化した現代ではだいぶ薄れてきたと思いますが、確かにね…
最後に、堺利彦氏がビラを配って訴えていた内容が以下です。
一、予備政策 普通選挙。言論集会の自由。結社の自由(労働者団結の自由)。婦人運動の自由
二、応急政策 労働保険。養老年金。八時間の労働。最低賃銀。小児労働禁止。婦人労働の制限。夜業の禁止(特別の場合の外)。小農及小作人保護。労働紛議仲裁機関の設置。職業紹介機関の設置。無料教育。無料診察。無料裁判。陪審制度。死刑廃止。間接税及関税の廃止。土地及所得に対する累進税。累進相続税。都市政策。軍備縮小。秘密外交の廃止。国際仲裁裁判の設置
三、最後の大理想 土地及資本の公有(p323)
著者も指摘している通り、
今では当たり前の自由や権利も、100年前は主張しただけで危険思想とみなされていた事実に驚きます。
と同時に、その当たり前の権利や自由を今の政府が再び奪おうとしていることにも気づかされます…
当たり前に享受できている権利や自由は、先人たちが汗や涙、あるいは血を流して掴みとってくれたもの。
今後は、侵されつつある権利や自由を権力側から守り、現代に必要な新たな権利や自由について考える必要性を感じています。